蛍光イメージングは、生命科学研究において最も広く利用されている観察技術の一つです。蛍光イメージングの強みは、自分たちが観察したい細胞の構造や生体分子などを蛍光分子で標識し、光を当てて励起することで、その部分だけを特異的かつ高感度に可視化できることです。しかし、蛍光強度は励起光の強度変動や、局所的な蛍光色素濃度のばらつき、蛍光分子の光退色といった要因の影響を受けやすく、測定精度の低下を招くという課題があります。この課題を克服する手法として注目されているのが、蛍光寿命イメージングです。蛍光寿命とは、励起された蛍光分子が基底状態に戻るまでの平均時間を指し、蛍光強度を変化させる要因の影響を受けにくいという特性があります。そのため、蛍光寿命イメージングでは、従来の蛍光イメージングに比べて、より頑健で定量的な測定が可能です。一方で、蛍光寿命を測定するには、蛍光強度を時間的に分解して検出・解析する必要があるため、従来手法では撮像速度が遅く(ビデオレートあるいはそれ以下)、高速な細胞のダイナミクスや大規模な細胞集団を解析するには限界がありました。
そこで合田研究室では、蛍光寿命イメージングの撮像速度を向上させるための研究を行ってきました。その結果、私たちは蛍光寿命の同時多点測定技術を開発し、1万画像/秒を超える世界最高速の蛍光寿命イメージングを実現しました。本手法では、連続波発振レーザーを複数のビームスポットに分離し、それぞれを異なる周波数で強度変調したうえで対象物に照射します。蛍光はすべて単一ピクセルの光検出器によって同時に検出されますが、ビームごとに異なる変調周波数が割り当てられているため、検出された信号をフーリエ変換することで各成分を分離し、解析することが可能になります。また、蛍光寿命は各ビームスポットの蛍光信号と励起光との位相差から推定することができます。この高速蛍光寿命イメージング技術を用いて、私たちは腫瘍やがん細胞などの異種細胞集団に対する大規模な蛍光寿命画像解析を世界で初めて実施し、その有用性を実証しました。現在はこの技術を活用して、生物医学や神経科学といった分野での応用研究を進めるとともに、新たな蛍光寿命イメージング手法の開発にも取り組んでいます。
参考文献
- H. Kanno, K. Hiramatsu, H. Mikami, A. Nakayashiki, S. Yamashita, A. Nagai, K. Okabe, F. Li, F. Yin, K. Tominaga, O. Bicer, R. Noma, B. Kiani, O. Efa, M. Büscher, T. Wazawa, M. Sonoshita, H. Shintaku, T. Nagai, S. Braun, J. P. Houston, S. Rashad, K. Niizuma, and K Goda, “High-throughput fluorescence lifetime imaging flow cytometry”, Nature Communications 15, 7376 (2024)
- H. Kanno, F. Li, J. Park, H. Endo, K. Niizuma, L. Gao, and K. Goda, "High-speed fluorescence lifetime imaging microscopy: techniques, applications, and prospects", Biophotonics Discovery 2, 030901 (2025)